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アメリカ経済の健全性を予測

チャレンジ

アメリカ経済の健全性を予測する新しい経済指標の開発

解決方法

Mathematica だけを使って,X-12-ARIMAモデルを実装し,時系列データを解析して結果を可視化する.

Robert P. Yerex博士

利点

  • アメリカ経済の健全性を示す景気先行指標であるKronos Retail Labor Indexを開発

Mathematica の強み

  • アルゴリズム開発,時系列解析,結果のグラフ表示を1つのシステムで行うことで効率が向上
  • 独自の図表オプションにより,結果やデータの斬新な可視化が可能
Mathematica のグラフィックスは素晴らしい.他のソフトウェアで同様なものができたことはありません.」

近年,アメリカ経済の健全性を予測することはこれまでになく困難になっています.アメリカの小売業界の多くに従業員管理ソフトを提供するKronos社では,Mathematica とユニークなデータソースを使い,アメリカ経済の健全性を示す景気先行指標であるKronos Retail Labor Indexを作成しています.

新しい経済指標の必要性

「過去数十年の間にアメリカ経済は,官民双方における物理的なインフラストラクチャで消費される商品が国内総生産(GDP)の最も大きな割合を占める商品ベースの経済から,可処分所得を使おうというアメリカの消費者の気持ちが経済成長の機動力となる経済へと様変わりしました」とKronos社の主席エコノミストであるRobert P. Yerex博士は述べています.特に製造業がジャストインタイム生産工程へと移行し始めたことで,在庫水準等の物理的なサプライチェーンの動態に基づく先行指標の信頼性と有用性が低下しました.新たなサービス経済として,商業の大部分が物理的な商品ではなくサービスの提供に結びついており,一般的なアメリカの企業では運用コストの60%以上を人件費が占めるようになっています.この割合は,小売業,飲食業,サービス業,医療産業等のサービス主体の産業ではもっと高くなっています.

上記のような変化により,アメリカ経済の状況を追跡する新しいモデルの差し迫った必要性が生じたのです.

Kronosシステム

先行指標を見付ける潜在的な分野の一つに,労働力市場の動態があります.Kronos社はアメリカの小売市場の大部分における従業員の雇用および定着率の統計に瞬時に直接アクセスします.

Kronos社は1977年に創業され,マサチューセッツ州に本社を構えています.同社はアメリカの小売市場の多くに,多岐に渡る従業員管理ソリューションを提供しています.特に力を入れているのは雇用と新入社員研修です.Kronos社は2秒ごとに1つの就職申込みを処理し,これまでに8千万件以上を処理してきました.これによりKronos社に更新や調査の標本誤差に影響されない,ユニークで独立したデータソースが提供されます.

Kronos Retail Labor Indexの開発

Kronos Retail Labor Indexは,小売業の採用傾向と他の経済尺度との間の関係が先行指標として使えるという仮定のもとに,この関係を数量化します.Yerex博士は Mathematica だけを使ってKronos Retail Labor Indexの開発し,月毎のIndex作成にも使い続けています.

データへのアクセス

指標を決定するためのデータはKronosシステムから得られ,アメリカの69の小売会社(アメリカの小売業の労働力の約15%)における就職申込みと採用の記録を表します. 大量のデータ(1年間に約3千万の申込み)がSQLデータベースに保存されます.Mathematica にはMySQL,Open Database Connectivity (ODBC),HSQLDB等多数のデータベースのサポートが組み込まれているので,簡単にデータが引き出せたとYerex博士は言っています.博士はそれからそのデータを Mathematica で解析したのです.

時系列解析

アメリカの小売業界における労働力の需要は,季節の影響を大きく受けるため,経済に関連した時系列の解析には特別な形式の時期調整が必要です.Yerex博士は時系列解析を行い季節性を排除するために Mathematica を使用しました.「記号的に方程式を書き,それを数値的に解くことができるということは非常に便利で時間の節約になりました」とYerex博士は言っています.時系列は,標本自己相関関数(ACF)が季節周期の倍数単位(下の月別データでは12ヶ月目,24ヶ月目…)で顕著な値が現れている場合に季節性があるものと定義されます.正規化された雇用水準を見てみると,1月と7月に最も顕著である明確な季節的影響を示しています.

表1:季節的な変化を表した正規化された雇用水準

表1:季節的な変化を表した正規化された雇用水準
ソース:Kronos Retail Labor Index(手法)

Yerex博士は季節調整にBox–Jenkins法を使いました.この方法では,季節性は非定常の支配的因子であると理解されます.通常季節周期は既知なので,よく知られている自己回帰和分移動平均(ARIMA)モデルがかなり簡単に適用できます.

Indexデータと一緒に使用した場合のさまざまなARIMAモデルを十分比較し,ACFとKruskal-Wallis係数を最も小さくするモデルであることを選択基準とした結果,Yerex博士は米国勢調査局のX-12-ARIMAモデルが最も適切なモデルだと判断しました.米国勢調査局は非常に大規模な時系列を解析するためのパブリックドメインソフトウェアとしてX-12-ARIMA季節調整法プログラムを提供しているのですが,Yerex博士は Mathematica を使ってX-12モデルを実装しました.「国勢調査局が提供するソフトウェアを使うこともできるとは思いますが,そうするとデータ解析や結果のグラフ表示のために開発した多数の他の工程との統合ができないでしょう.Mathematica のグラフィックスは素晴らしい.他のソフトウェアで同様なものができたことはありません」と博士は述べています.

表2:季節調整された雇用水準

表2:季節調整された雇用水準
ソース:Kronos Retail Labor Index(手法)

Indexの計算

Kronos Retail Labor Indexは応募者に対する雇用者の割合として単純に計算されます.雇用と応募の時系列には異なる季節特性があるので,それぞれ別の季節性で調整されます.

表3:季節調整されたKronos Retail Labor Indexの傾向

表3:季節調整されたKronos Retail Labor Indexの傾向
ソース:Kronos Retail Labor Index(2010年7月発表)

Mathematica だけで新しい経済指標を構築

表4:アメリカ経済の動向:2006?2010(Kronosデータ)

表4:アメリカ経済の動向:2006-2010(Kronosデータ)
このグラフはKronos Retail Labor Indexの全体的な動向を表しています.曲線の色は,米国の失業率の上昇を視覚的に表しています.黒は失業率が低く,赤は高いことを表します.線の太さは,就業期間の相対的変化を表します.
ソース:Kronos Retail Labor Index(2010年7月発表)

Mathematica のみを使って構築されるKronos Retail Labor Indexは毎月作成されており,アメリカ経済全体の健全性の重要な経済指標となっています.アルゴリズム開発,時系列解析,結果のグラフ表示を行うのに1つの中心的な場所を提供する Mathematica の機能により,Yerex氏の仕事の効率は大きく向上したということです.

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